白石/hitodama128/コースの雑記

白石倖介(ひとだま128)(コース)の雑記です。Tech・まんが・毎月のまとめなどを書きます。お仕事依頼はメールをください(記事を書いたり、編集したり、写真を撮影したりできます)Mail:hitodama128 at icloud.com

借金玉氏のハウツー本は、人生という死にゲーのドキュメンタリーだ

この本には、発達障害者の死に覚えゲーの記録が残っている。タイトルは編集者と一緒につけたのだと思うのだが、恐ろしい内容だ。タイトルに辟易せず、すでに診断を受けている人にも、自身の発達障害を疑う人にも読んでほしい。

僕がADHDの診断を受けたのは小6の終わりで、動作性IQ74、言語性IQ124というデタラメな振れ幅が僕を僕たらしめていた。今に至るまで常日頃、「定型発達者から度々発せられる発達障害者への安易な共感」にイライラしていたのだが、この本にはその安易な共感がなぜ生まれるのかすら書いてある。なぜ定型発達者は、自身が知り及ぶことのできない私の苦しみに安易な共感を向け、「それぐらい大したことない」というような謎のレッテルを貼る悪趣味をみんなが持っているのだろう? と常々思っていた。彼らのそれは「対峙している人が、自身と同じ人間である」という安心を得るために存在するだけの、自己防衛的な感情であったか、断罪に快感を得る「優しくない人」なのだ、と思っていたが、これは「部族の愛」だったのだと今思う。
数多の発達障害者は(無意識にでも)人生を「死に覚えゲー」で捉え、向き合っていると思う。その「死にゲー」の記録が「ライフハック」として大量に書いてあることで、「これは俺もやってる」「これは俺には確実に向いていない」「これはやらなくても大丈夫」と、読むだけでその効能を推察できるのが素晴らしく、そう思った瞬間「あ、もしかして定型発達者は自己啓発本をこうやって役立てているのか!?」という気づきがあった。

僕にとって自己啓発本とは、
「テンションとプライドと声のでかい、高いネクタイをした男が自分の宗教を自慢する本」
「書いてあることは例外なく『それが出来るならこんな本読んでないわ』と一蹴せざるを得ない内容の本」
「一級品の材料だけで描かれた、『そんだけいい材料使ったら何でも美味いわ』という料理本」
でしかないと思っていたので、本当に衝撃を受けた。
僕は左利きなのだが、左利きは右利きよりも、自販機や急須や缶切りなどが「少しだけ」使いにくく、日々難儀している。これを言語化したときに右利きの人々は「なるほど」と相槌を打つのだが、同じ気持ちになった。
「出自のあり方から自己肯定感の薄い数多の発達障害者が、それでも社会で生きていくために行っていること」を、当事者の目線で言語化していることに意味があり、ドキュメンタリーとしての側面も持っている。
おそらく、100人の発達障害者が居たら、100つのハウツーがあるのだ。無意識にでも行っている、定型発達者から見たら奇異にも映るような行動が具体的に、それらの効能も合わせて記載されたことは、革命的なことであると思う。
例えば、「無くしたり、忘れたりすることを防げないなら、名刺ケースを4つ持つ」というのは、僕自身もやっていたハックだ(会社の下にダイソーがあったので、取材に行くとき名刺ケースを買いまくっていた)。
しかし、これは「ハック」として行っていたのではなく、忘れてしまうから行っていた。だからいつも「自分はアホだなあ」と思っていた。
しかしこれが「ハック」として定義され、実践できることで、発達障害者は自尊心を失わずに問題の発生を未然に防ぐことが出来る。「無理ならやらず、未然に回避せよ」が徹底されているのも、この本の素晴らしいところだ。「睡眠はスキルなので、スキルがない人はとっとと睡眠薬を飲め」なども圧倒的に正しい。

また、「人間関係」の章に関しては、自身も人付き合いの中でかなりの部分を解き明かしていたため気付きは少なかったが、同時に「こんなに大変な思いしてるの俺だけじゃないんだな」と思えて、気が少し楽になった。人は条件を定義して判断を積み重ねる生き物なのだと、人の尊厳は発達の度合いにかかわらず保たれるのだ、という当たり前のことに感動する。

反対に、自身に向いていないハックもある。僕には軽い書字障害が有るため、キーボードは無限に叩けるけどペンを握った瞬間何も書けなくなるので、メモ帳やアイデアノートの活用は自身には不可能だ。
でも、そんな自身にも、効率的に文章を書くための自分なりの技術がある。そして、それが他人の役に立つかもしれない、と気づけたことはこの本を読んで得た大きな収穫だ。
とにかくいい本だった。僕にとってこの本は自己啓発本でもハウツー本でもなく、
「大失敗を未然に防ぐ、少失敗で乗り切るための発達障害者ドキュメンタリー」に近い。
やっていくことが少し楽になりそうだな、と思った。

 

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術

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