ピンクから水色へ(「夏の魔物 2017」の感想とレポ<後編>)

ギターウルフの演奏中、プロレスリングに靖子ちゃんのステージが作られていた。ど真ん中でやるという予想が当たり、完全にベストポジションで靖子ちゃんを見られることにワクワクしながら靖子ちゃんの登場を待つ。

ミッドナイト清純異性交遊のオケと共にリングに登場するのは、大森靖子…ではなくピンクのセーラーを着た塚本舞(まいぷに)。見てる時わからなかったけど後で調べたら知ってた、グラドル自撮り部の人だ…!
後ろを振り返ると「超魔物」の旗を振る大森靖子がやってくる。客の間を割り、リングロープを割り、リングに立った靖子ちゃんはまず、まいぷにとディープキス。セルフカバーだと思った。
靖子ちゃんはアイドルをリスペクトしているし、だからこそこの歌を歌うし、僕も、この歌を聞いている時は、靖子ちゃんをアイドルの地平に送りたいと思って手を振るのだけれど、その次にIDOL SONGやるの、批評性が高すぎてズルい。
まいぷには退場、アコギに持ち替えた靖子ちゃん、久々に弾き語りが見られて嬉しい。マジックミラーで感情を高ぶらせ、PINKで爆発した心からの言葉が胸を打つ。

モテたいモテたい女子力ピンクと
ゆめゆめかわいいピンク色が
どうして一緒じゃないのよ あーあ
汚されるための清純じゃないわ
ピンクは見せられない
あたしのゆめは
君が蹴散らしたブサイクでボロボロのLIFEを
かき集めて大きな鏡を作ること
君がつくった美しい世界をみせてあげる
大森靖子「マジックミラー」

ピンク色の丸をくれ
ピンク色の三角をくれ
私が少女になれるようにピンク色をくれ

ピンク色で花まるな
ピンク色のハートを見せてよ
私が少女でいるためにはみんなが優しいことが必要だよ
大森靖子「PINK」


弾き語り音楽表現の閾値を超えたPINKが響く。
間奏の途中、ギターを弾くのをやめ、マイクを手に持った大森靖子が、泣きながら叫んだ言葉に、僕も泣いてしまった。
「心底、不甲斐なくてやるせなくて…………あの、不甲斐ないこととかやるせないこととかって、言わないととっくに売れてるんですよ私は! 夏の魔物のヘッドライナーやってる場合じゃないんですよほんとは!Twitterやらないとあと10倍売れているんですよ私は!」

「それでも! 私はこのフェスに来てしまうようなあなたたちの生活を、呪いを、私の生活も呪いも、大切に大切に!一つも!余すことなく!歌いたいんだ! 」

「本当にこんなのですみませんけど、売れなくてもいいから全然(売れたいけどMステとかも出たいけどほんとは)売れなくても別にいいから!私は私の音楽をやりたいんです!」
その後、「ここの夜景を思い浮かべて書いた曲です」と「TOKYO BLACK HOLE」を歌う。
「私の汚い顔見なくてもいいから、夜景でも見て、聞いてください」って、そう言った大森靖子が美しかった。

HELLO HATE
僕が死ねばいいと願った奴は一人残らずいつか必ず死ぬだろう 忘れるさ
最初から希望とか歌っておけばよかったわ
忘れたわ
愛さない認めない変わらないほうが失くさない 輝きは特別は青春は剥がれていく ボロボロになっていく 神様になっていく君が 透明な銃 放つ自由
時がきた今
大森靖子「TOKYO BLACK HOLE」

歌詞が素晴らしすぎてもう段々とこの文章を書いている意味のなさに喰らってきた。
一人リングに立ち、自身がリングで歌うことの意味を、「リングとは、プロレスとは、こういうものを誠実に吐き出していい場所だ、と捉えている」と語る。
「本当の戦いでしょう、だって、プロレスだって、私だって、歌詞だって、音楽だって、みんなの人生だって。だから逃げちゃダメだと思うんだよね」
「いっぱい連絡してください。私、DM解放してるんで、いっぱいやりとりしてください。これからもみんなの生活とおんなじ、おんなじ位置で一生やっていくので私は」

MC後、続けて歌われた「君と映画」「デートはやめよう」「絶対彼女」には、大森靖子のピンク色の呪いが、祈りが、誠実に吐き出されていたように思う。

昨日ちょっと泣いちゃったから
今日は誰にも会いたくないな
パンのジャムも服についちゃって
あーあ、おんなのこってむずかしい
いつも元気なんてむりだもん
でも新しいワンピでテンションあげて
一生無双モードで頑張るよ
君もかわいく生きててね

絶対女の子 絶対女の子がいいな
絶対 絶対 絶対 絶対 彼女
大森靖子「絶対彼女」

最後は舞台を降りて歌った靖子ちゃん。
「みんなの近くに行きたい!みんなの近くで歌いたい。ワイヤレスマイクある?フラフラ歌います」
「最近気づいたんですけど、あの、ギター私のこと拡張してくれてるんじゃなくて、これ拘束具だって気づいて。シールドあるし。ワイヤレスマイクが一番、拡張だね。 みんなのとこに行きながら歌いたいと思います」


追いかけて バカみたい
ベンチの二人がひらく青春
私との夢のつづきなら
笑いに行くわよ はやくお逃げなさい

あなたは正しい それでもやっぱり
私だって正しい
そんな喧嘩もできなくなるの
春なんて来なければいい

生きている 生きてゆく
生きてきた 愛はただれて
この体を阻んで行く
呪いは水色

生きている 生きてゆく
生きてきた 愛の隣で
私たちはいつか死ぬのよ
夜を越えても

夜を越えても
大森靖子「呪いは水色」

川崎にて最後の1歩
この海にて泣きのあと1曲
わからないなら死ねばいい
わたしはまだ歩ける
大森靖子「さようなら(夏の魔物2017ver.)

観客のど真ん中、「呪いは水色」と「さようなら」をアカペラで歌い、最後に、「ありがとうございました!」と叫んでライブは終了。

靖子ちゃんがファンの気持ちといっしょになって音楽を続けていく、その覚悟や祈りがダイナミックに注がれたライブだった。自主盤時代の「PINK」から解き放たれた言葉が、「呪いは水色」に還っていくような情景が浮かぶセットリスト。夜の川崎、真っ黒な海に、彼女のむき出しの感情が響くその有様を、目撃できてよかったです。

 

大森靖子 at 夏の魔物2017年9月10日

https://youtu.be/nVwk1S4c5vE