白石/hitodama128/コースの雑記

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砂糖菓子は誰のもの(桜庭一樹の話)

少女の比喩としての「砂糖菓子」って誰が言い始めたんでしょうね。

僕は萩尾望都が「10月の少女たち」のフライシー編で使ったやつが大好きです。

10月の少女たち (小学館文庫 はA 45)

10月の少女たち (小学館文庫 はA 45)

 

 「すぎて行く結婚が 愛が 夢と砂糖菓子だった 少女の時間が…」

少し泣いた後で、電話を取って結婚を告げるフライシーの感傷と、
同時に、そのわずかな時間さえあれば結婚できてしまうドライさというか、自分への義理を果たすところに、自らの「少女」に自覚的なところが出てて恐ろしい。
あ、砂糖菓子って言葉自体は「11月のギムナジウム」でも使ってました。

で、桜庭一樹の「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」が話題になったのは2006ごろだそうで。 

主人公、山田なぎさと、転校生である海野藻屑が淡々と親交を深めていくなかで、しかし衝撃的な事件とともに物語は急転、そのまま終わってしまう。

今読んでも恐ろしい話。主人公であるなぎさの成長が物語の終わりに結ばれる点でスタンダードな青春小説だとも言えるし、同時になぎさは「望もうと望まざると、成長せざるを得なかった」とも言える、残酷な物語。
全てが終わってしまった後、「『藻屑』の行方を『渚』が見ている」という構図は、初めから2人は相容れなかったことを(悲しいことに)明示しており、なぎさは初めから渚に立っていたのだというところに物語の胆力が見える。
神様の力を持ったお兄ちゃんがすっごく良いのだ。こういう、不思議なアングルで物事を捉えられるキャラクターを作れるところが、桜庭一樹の強さだと思う。 

 

 

推定少女 (角川文庫)

推定少女 (角川文庫)

 


推定少女

砂糖菓子よりもさらに古い、2004刊行の作品。
家出少女、巣篭カナは白雪という全裸の少女と出会い、大人や社会から逃げていく。唯一にして最大の欠点、そしてこの作品をこの作品足らしめているテーマが全て詰まったエンディングが素晴らしい。物語全体に漂う青臭い疾走感は初期作品ならではのものだと思う。

 

青年のための読書クラブ (新潮文庫)

青年のための読書クラブ (新潮文庫)

 

青年のための読書クラブ
桜庭一樹の本の中で、最も読みやすいと思う。名門女子高に100年存在する不思議な読書クラブを舞台にした年代記。章立てされた年代記桜庭一樹の得意技で、連綿と続くものの尊さと、そこに必ず吹く新しい風の爽やかさが、読む人間を飽きさせない。
1969年から始まって2019年で終わるのだが、僕は1989年の「奇妙な旅人」と2009年の「一番星」が好き。少女たちが時流に翻弄されながら、それでも果敢に「今」をかけていく物語。

 

年代記が好きならこちらもオススメ。

ファミリーポートレイト (講談社文庫)

ファミリーポートレイト (講談社文庫)

 

ファミリー・ポートレイト

「私の男」で直木賞を受賞した後初の長編小説で、とにかく分厚い。マコとその娘、コマコが辿った足跡を追っていく第1部と、一人で生きるコマコの生活を描いた第2部の二部構成になっている。第1部は儀式であり、第2部は儀式を経た呪いの贖罪だ。この分量を、この熱量をかけて描きたかったことが最後の1ページに集約されるところには、読書っていいな、って思わされる。

 

そして、年代記から、ひと段落ついて、原点回帰のように少年少女の疾走感を纏ったこの作品を描いてくれたことも、とても嬉しい。 

無花果とムーン (角川文庫)

無花果とムーン (角川文庫)

 

無花果とムーン

辺鄙な地方都市、無花果町では、数件のUFO目撃情報を町おこしに使おうと、毎年UFOフェスティバルが催される。そんな不思議な町に住む18歳の少女、月夜と、紫色の瞳を持つ彼女を「ぼくのパープル・アイ」と呼ぶ兄、奈落の物語。
これは読んだのが最近すぎるのと、好きすぎるのでまだ客観的な文章が書けない。
桜庭先生が「砂糖菓子」から続くテーゼをもういちどぶつけてくれたことに、すごく感謝してます。

 

少女七竈と七人の可愛そうな大人 (角川文庫)

少女七竈と七人の可愛そうな大人 (角川文庫)

 

少女七竈と七人の可愛そうな大人

自らの容姿を呪いの烙印だと語る、大変美しいかんばせを持って生まれてしまった少女の物語。
北の地方都市に生まれた少女、川村七竃はあらゆるものを呪いながら生きている。いんらんな母親を、そしていんらんな母親に似てしまった美しい自分の顔、美しい顔に好奇の目を向ける男たち。心許せるのは同い年の親友、雪風だけ。

七竃は狭い地方都市の中で狭い人間関係を呪いながら生きているのに、それでもその年齢と美貌は、彼女がそのままくすぶることを許さない。これも呪い。
友人の雪風鉄道模型を走らせる瞬間だけを愛しく思う七竃は、世界を呪いながら、列車を走らせて自分だけの世界を作る。
多重に描かれる彼女の呪いは、しかし様々にポップなキャラクターたちのおかげで時にユーモラスに描かれていて、何より情景描写がずっと、ぶっちぎって美しい。
冬の街に色をつける七竃のヴィヴィッドな赤色、そのものようなメリハリのある描写が大好きです。


読む順番を教えたがるというのは、「いきなりこれを読むとこの作家性がわからないかも」という、読んじゃった人の危惧なので、「これを読んでみたい!」という気持ちには叶わない。あんまり気にしなくていいと思う。
何から読んでもいいと思うんですけど、もし順番を気にするならば、

砂糖菓子→推定少女→赤xピンク→七竃とか
読書クラブ→推定少女→私の男→ファミリー・ポートレイトとか

話題作が気になるなら
砂糖菓子→赤朽葉家の伝説→私の男
とか、おすすめです。

一通りカバーするなら
砂糖菓子→推定少女→赤xピンク→七竃→荒野(3部作で文庫を買うのを強くオススメ)→読書クラブ→赤朽葉家の伝説→私の男→ファミリー・ポートレイト→無花果とムーン
とか。

このあいだの短編集もまだ読めてないので、引き続き桜庭一樹を読みます。

blogを作りました。

人生4度目のblogです。

 

最近全然本を読まなくなってしまい、不意に思ったんですが、

学生時代、blogを持っていた頃は本を読んだり、映画を見たりしたあとで、

感想をブログにまとめるところまでセットになっていたので、

「blogに書こう」っていう思い自体が読書の原動力になっていた気がするんですよね。

 

なので、試しに作ってみました。気合入れすぎると続かないから暇暇に書きます。

最近読んだ本。

 

ばらばら死体の夜 (集英社文庫)

ばらばら死体の夜 (集英社文庫)

 

仕事を始めた頃に買ってから、全然読めなくて、とにかく全然読めなくて、途中で無くして買い直したりして、3年かかってやっと読みきった本でした。

 

世相に翻弄された数人の登場人物が、表題である「ばらばら死体の夜」に向かって行く、というようなお話。

2014年にさむざむと吹いていた不況の風がそのまま書いてあるような本だったのだけど、2017年はこの頃よりももっとさむいからあんまり重い気持ちにはならなかった。いいことではねえな。

 

桜庭作品に常に居る、「美しいかんばせはすなわち呪いである」と顔で語る女、は今回ももちろん出てくるのだけれど、なぜ桜庭先生がここまでの呪いを描き続けてしまうのか、が、何冊読んでもわからない。きっとこの先もわからない。

 

 

 最高!

羽生生先生の漫画は紙で読みたい。

液晶の点滅じゃなくて、繊維に落ちたインクで読みたい。

だからコミックビームが「電子のみで単行本販売」とか言い出してるのほんときつい。

石で漫画描いてる漫画描いてるんだぞ。すげえ日本語だ。

 

 

とか言いつつこっちは電子で読んじゃった。

弐瓶勉ファンに不義理を働いてしまった気がする。

だって新装版がKindleでアホみたいな値段で売ってたんだよ。

大昔読んだんだけど全部読んでなかったっぽい。面白かった。

BLAME学園も読み直したい。

 

ただ、SFって「途方も無いすべて」を内包するジャンルだからこそ、

「終わらない旅に至る中間」を切り取るような描き方や、

あるいは続いて行く物語を見守るような落とし方になってしまうと。

萩尾望都の「6月の声」の凄まじさを思い出してしまうのでどうにも切ない。

 

A-A’ (小学館文庫)

A-A’ (小学館文庫)

 

 これに入ってるらしい。(第1期作品集だと「続・11人いる!-東の地平・西の永遠-」に入っている)

萩尾望都が初めて描いたSF(正確にはスペース・オペラとしてのSF)で、これ以前だと「精霊狩り」とかになっちゃうからまた話が変わってしまうのだけれど、とにかく20代前半に6月の声を産み落として居ることが信じられない。

後に出るブラッドベリ作品集「ウは宇宙船のウ」に入っている「スペースマン」もまた、宇宙に魅せられてしまった人を悲しく描いた傑作。

 

とりとめもなくブツブツ書いてしまった。

漫画と本読むね。